ラッカは静かに虐殺されている

​ ドキュメンタリー映画ラッカは静かに虐殺されている」を鑑賞した。原題はCity of Ghost。幽霊の街。破壊されたラッカの街を表した言葉だ。
 
 ​ラッカは、中東にあるシリアの都市だ。そこはかつて、“ユーフラテス川の花嫁”と呼ばれた美しい街だったそうだ。そんなシリアは、長年のアサド政権による圧制に倦んでいた。民衆が抗議運動を起こし政府軍と衝突、国内は混沌と化す。首都ダマスカスや大都市アレッポが戦火に巻き込まれる中、少し離れた地に在るラッカは統治者がいない状況が生まれる。その空白に滑り込んできたのが、ISILないしISIS、今の”イスラム国(IS)”である。シンボルである黒い旗を掲げて、銃声を響かせて、それは街を乗っ取った。自らを国家と称し、ラッカを首都と定めた。
人々が殺されていった。広場で拘束されて後頭部に銃弾を撃ち込まれた人。斬首されて、首を晒された人。
自由を求める人は口を閉ざさざるを得なかった。あるいは、永遠に口を封じられてしまった。故郷を去った人たちがいた。その道中、密航船とともに海に沈んだ人たちもいた。
 ​Raqqa is Being Slaughtered Silentlyーラッカは静かに殺されている。
邦題にもなったこの言葉は、市民ジャーナリスト集団の名前だ。ラッカを占領したISは言論統制をして、対外へプロパガンダのみを流すようになった。人々が求めているのは自由で満ち足りた生活だ。IS統治下のラッカがまるでその自由な世界であるかのようなニュースを流し続けた。
実際のところ、美しかったラッカは、幽霊の街と化していた。食糧は長い配給の列に並んでも手に入るかわからなくて、病院には薬がない。ISに忠誠を誓えばあるいは、もっとマシな生活ができるのかもしれない。少なくとも一般市民にとっては地獄そのものだったろう。
そういった惨状を、世界に伝えなくてはならないと考えた市民がいた。そうして立ち上がったのが、RBSSだ。カメラやスマートフォンで映像を撮り、TwitterFacebookにアップロードした。現状をラッカの外に伝えるために。国際社会に訴えるために。ISに抵抗するために。自由を手にするために。
当然それは危険な行為だ。
 
 RBSSメンバーは国内組と国外組に分かれて活動をしている。国内で集めた情報を国外メンバーが受け取り、時期を見計らって発信する。国内のメンバーは当然危険だ。だからといって国外で活動するメンバーの安全が保証されているかというと、全くそんなことはない。かつてトルコで活動していたRBSSの協力者は、白昼堂々大通りで射殺された。多くのメンバーはドイツへ逃げた。
ISは「ドイツに住む戦士でRBSSの創設者を暗殺できる者はいないか」と呼びかけた。
ドイツに住む人々の中でも、移民に対して悪感情を持ちデモを行う人もいる。“アレッポは燃えている”というプラカードを掲げた移民に対し、さっさとドイツから出ていけと叫ぶ。
故郷を失って、命からがらヨーロッパまで来て、なんとか住むところを見つけてもただ「シリア人」というだけで排斥される。
だからといって、移民を受け入れてもいない私たちが反移民を無闇に批判できるとは思えない。シリアからドイツに流入した移民は、2010年の年間3000人に対し、2014年には約65,000人にまで激増している(2016年OECD調査)。自分たちの生活に危険が及ぶかもしれない。ヨーロッパに住む移民ないし2世などがテロリズムに走る事件が昨今多く発生している。インターネットを通じてISの思想に共感しジハーディストとなってしまう。ローンウルフ型と呼ばれるテロだ。
 
 2017年、ラッカはISから奪還された。ISという組織を根絶したら平和になるわけではない、あれは思想なのだ、とRBSSのメンバーは語った。無辜の市民がたくさん死んだ。家を失った。
 
 なぜISが市民の生活に侵入したのかということを考えなければならない。そこには不自由な暮らしに対する不満や、貧困などがあった。
わたしたちは身に迫らない危険に関して鈍感である。そうでなければ生きていけないからだ。これは、映画「私はあなたのニグロではない」で黒人公民権運動家のボールドウィンも言っていたことだ。他人の権利のことまで考えている余裕なんてないほど人生は厳しい。
そうだとしても、少しでも知らなくてはいけないと思う。目をそらしてはいけないのではないかと思う。日本人のジャーナリストも何人かシリアへ渡り、殺されたり拘束をされて、一時的にはセンセーショナルに報道された。自国民に被害が及ばなければ人々は興味を持たないし、それにジャーナリストは自業自得だ、税金の無駄遣いだと非難されすらした。
三者が手を差し伸べなければどうにもできないことがある。市民は十分すぎるほど闘い、国際社会に助けを求めた(残念ながらその見返りは大量の空爆であったが)。
 
 ぜひ一度見て、自分の目で確かめてみてほしいと思う。劇場で観るのが難しくても、アップリンクのオンデマンド配信を利用することができる。

www.uplink.co.jp

上記リンクにはRBSSへの資金サポートができるリンクもある。

 

 ショッキングな映画だった。目を背けたかった。何度も観なくてはいけないとも思った。本記事は拙い文章で、情報にも誤りがあるかもしれない。いや間違いなくあるだろう。それでも恥を忍んで書いた。